目を覚ましたのは昨日より随分遅い時間で…と言っても睡眠時間だけを考えたらそれほど長く眠っていた訳ではない…まだぼんやりする意識の中、まだやんでいない雨の音が鼓膜を揺らす。心地のいい、雨音だ。
旅行中なのだから、どうせなら雨は降らないほうがいい。でも、この土地で過ごすわずかな時間の中で、その音や温度、感触、非日常の中にあるものを知れるというのは得した気分にもなる。蒸し暑いけれど、汗ばんだ体に馴染みきらない空気感。隣で眠る虎にすり寄って額をその肩へ押し付ける。虎の匂い、そこに僅かに滲む汗の匂いすら心地よく、胸にす、っと安心感と幸福感と、そして劣情が広がった。

「……あさ?」

「まだ、ごめん、起こした?」

「…や、」

「雨もまだ、降ってるね」

「ん」

「もう少しのんびりしてよう」

「ああ」

天気が良ければもう、外は明るいのだろう。でも今日は雨。体が少しだるいのはセックスのせいだろう、あと、お酒も少し残っているかもしれない。そんな体の重ささえも愛しく、耳に流れ込んでくる雨の気配に再び睡魔が押し寄せてきた。

「寝る?」

「どうしようかな」

「寝れば」

「うん、でも朝ごはんも食べたいな」

「…分かる、」

「不思議だよね、たくさん食べた次の日って、お腹空いてるの」

「ああ」

「今日は何食べようかな」

昨日は観光地ということもあり外国人向けに多国籍の料理が並んでいたけれど、ここはどうだろう。レストランは部屋を出て少し歩く必要がある。ルームサービスを頼むのもいいかもしれないと思いつき、ベッドサイドのテーブルに置かれていたパンフレットに手を伸ばす。

「パンケーキ」

「あるよ、あと、サンドイッチとかパンとか…あ、これがいいかも」

「何」

「インドネシアンブレックファースト」

「セットみたいなやつ?」

「うん、ブブールとフルーツの盛り合わせが載ってる」

「ブブール?」

「お粥みたいな」

「ああ…昨日のホテルにもあったな」

そう、大きなお鍋に大量のお粥とたくさんのトッピング。日本や中国からの旅行者向けのお粥かと思ったけれど、ガイドブックで目にしたインドネシアの伝統料理ブブールだったみたいだ。昨日の朝、それは口にしなかったし、たくさん飲んだ翌日の朝には丁度いい気がした。たくさんの豆皿にトッピング用の具材や薬味が乗っていて、目にも鮮やかなフルーツ盛り。
メニューのページを虎にも見えるよう広げると、「これにする」と、虎もすぐに頷いた。手の届く位置にある電話でルームサービスを頼み、届くまでの間に軽くシャワーを浴びて歯を磨き、雨に濡れる庭を大きなガラス戸から見つめると、背後に虎が近づいてきたのが映って見えた。

「やみそうだね」

「……わかんの」

「なんとなく」

異国の雨はどことなく不安を誘う。それでも背中にとん、とぶつかってきた自分の体に馴染んだ体温にひどく安心する。プライベートプールを囲う緑が、濡れてとてもきれいにその色を濃くしているのも、プールの水面に常に浮かぶ波紋も、見ていて飽きない。後ろから僕を抱き、腰からお腹へ回された虎の腕を撫でながら「明日の朝はさ、晴れたら外で食べようよ」と呟く。

今日の朝食もまだこれからだというのに、もう明日の話を持ちかけている自分が可笑しく、思わず鼻から笑いが漏れた。ルームサービスのメニューの中にあった写真に、大きな籠に用意されたアサイーボウル…料理内容の説明までしっかり読んでいないから合っているかはわからないけれど…やフルーツ、飲み物。それがプールに浮かんでいた。流行りの映え、だと言ってしまえばそれまでだけど、普段できないことだしせっかくなら、と。思ったのだ。

「いいよ」

「ふふ、じゃあ、そうしよう」

「ああ」

ガラスに映る自分から目を逸らし、背後の虎へ顔を向ける。
するとすぐに虎の顔が近づき、やんわりと唇が触れた。

「もうくるかな」

「……」

「……ほら、きたかも」

注文したインドネシアンブレックファーストは、写真通り綺麗で、ボリュームもあって、お粥に慣れた舌は文句なしに「美味しい」を感じ、のんびり、ゆっくり、僕らは朝食を済ませた。雨が止まないうちは部屋から出ず、当たり前のようにセックスをして、休憩をして、部屋でやってもらえるマッサージを堪能して、うとうととベッドに横になってまたセックスをして。昼を過ぎた頃、雨はすでに止んでいて、けれど今日は夕日は見れないだろうと言った空だった。僕らは少し外に出ようと近くを探索しつつお土産なども見て回った。
ジャッキーにはナイトマーケットまでの送迎も頼み、まだ少し早くはあったけれどヴィラのレストランへと向った。一番乗りの夕食はとてもひらけた、けれど落ち着く空間で、高い天井から吊された照明がとても印象的だった。








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